PLトポロジーの基礎

「PL トポロジーの基礎(暫定版)」で公開した PDF を切りのよいところまで書き上げることができたと思うので、新しいバージョンを公開したいと思います。(でも、これで完成版とはあえて言わないことにします。)

まず、暫定版では PL 多様体の節が “Coming Soon(?)” となっていたので、その部分を実際に書いたことが一番の変更点です。また、既存の部分も改めて自分で読み直してみたところ、書き間違いや証明の不備もあることが分かったので、それらを出来る限り直しました。暫定版と同じ大きめの字で書かれたバージョン(12 ポイント版)のほかに、全体を見渡すのに便利なように字を小さくしたバージョン(10 ポイント版)も一緒に公開します。

PL トポロジー PDF(12ポイント版)

PL トポロジー PDF(10ポイント版)

相変わらず図はありません。すみません。

さて、すでに暫定版で公開している内容とも重なっていますが、今回の PDF に書かれていることの概要をまとめてみたいと思います。

第1節「多面体と PL 写像」についてPL トポロジーが取り扱う幾何的対象は「多面体」と呼ばれるものです。これはユークリッド空間内の三角形分割可能な図形と説明するのが簡単ですが、ここでは三角形分割に依存しない「内在的」な定義をします。そこで重要になるのが「錐」の構造です。ユークリッド空間 \mathbb{R}^n において、点 a と、それを含まない集合 B が与えられているとき、線分 abb\in B にわたる和集合を aB と書きます。この aB の点が(a を除いて)(1-t)a+tb (t\in [0,1], b\in B) の形に一意的に表される状況を、「aB は錐である」と表現します。第1節の冒頭では、錐構造を用いて多面体を次のように定義します。

多面体の定義 \mathbb{R}^n の部分集合 P が多面体であるとは、P の各点 a に対して、P のコンパクト部分集合 B をうまく取ると、aB が錐となり、かつ aP における近傍をなすようにできることをいう。

さらに、多面体のもつ「局所錐構造」を保つ連続写像として、PL 写像が定義されます。こうして、多面体と PL 写像のなす圏が定義されると、その圏での同型射として、PL 同相写像が定義されます。こうして、PL トポロジーは多面体を PL 同相で分類する分野であるという粗っぽい定義が可能になります。なお、ここまでの知識で PL 多様体の定義を述べることができるので、そのまま第3節の最初の部分を読むことが可能です。

第2節「単体複体と単体写像」についてPL トポロジーは三角形分割された図形の幾何学だと言われることがよくあります。実際、多面体はつねにある単体複体により三角形分割され、そのような三角形分割を適切にとるとき、固有な(コンパクト集合の逆像がコンパクトな)PL 写像は単体写像として表されることが証明できます。とくに、コンパクトな多面体の間の PL 写像は単体写像となります。

以上の事実の証明が第2節の目標ですが、そのために、単体複体やその拡張である胞体複体の細分についての基本的な事実を地道に証明していくことになります。ここで、胞体複体とは、単体複体において単体よりも一般にコンパクトな凸多面体を構成要素に許したものです。例えば、K, L がともに \mathbb{R}^n 内の胞体複体であるとき、その「共通部分」

\{C\cap D\,|\,C\in K,\, D\in L\}

が再び胞体複体になることが証明できます。これは単体複体にはない性質です。このことを用いて、例えば、多面体の二つの三角形分割(単体複体による分割)が共通細分をもつことを証明できます。すなわち、上記のような共通部分として胞体複体を作ったのち、それを単体複体で細分すればいいのです。

第3節「PL多様体」について第3節では PL 多様体の基本性質を調べます。まず、定義は次の通りです。

PL多様体の定義 多面体 Mn 次元PL多様体であるとは、M の開被覆 \mathcal{U} が存在して、各 \mathcal{U} の各メンバーが上半空間 \mathbb{R}^n_+=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\} のある開集合にPL同相となることをいう。

ここでは、「多様体」といえば「境界付きかもしれない多様体」を意味する幾何学的トポロジーの流儀を取りました。境界のない多様体の定義は、上の定義の \mathbb{R}^n_+\mathbb{R}^n に置き換えたものです。

上では PL 多様体を多面体の言葉で述べましたが、多面体を三角形分割する単体複体はある特定の性質を満たすことが示されます。その性質を抽出したものが組合せ多様体の概念です。

組合せ多様体の定義 単体複体 Kn 次元組合せ多様体であるとは、Kの任意の頂点v に対して、スター |\mathrm{st}(v,K)|n 次元単体と PL 同相になることをいう。

定理 単体複体 K に対して、その多面体 |K|n 次元PL多様体であるためには Kn 次元組合せ多様体であることが必要十分である。

この定理を示すためには、単体複体の頂点のリンクの PL 同相型が、単体複体の細分について不変であることを証明しなくてはなりません。そのためには、頂点からの放射投影を用いるのが自然ですが、それは一般に PL 写像とならないため、それを修正した擬放射投影 (pseudo-radial projection) が用いられます(放射投影を PL 写像と勘違いすることは PL トポロジーの初期の文献に多く見られ、Zeeman がこれを指摘したため、Zeeman’s standard mistake という名前まで付いています。なお Zeeman がこの間違いをしたわけではないので注意が必要です)。これは技術的に重要な部分ですが、多くの文献ではあまり丁寧に書かれていないように思われます。

最後に、PL 多様体は、可微分多様体の通常の定義と同じように、座標変換が PL 同相写像であるような座標近傍の族を与えることでも定義できます。これは多くの文献で採用されていて、あまり PL トポロジーの内容に深入りしないで説明したい場合に便利に使われるように思います。私は、この定義といままでの定義が同値であるかどうかを疑問に思う読者は多いと考えました。そこで、その同値性が意味するところを定式化し、証明を与えることにしました。

PLトポロジーの基礎」への1件のフィードバック

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中