パラコンパクト性 PDF

位相空間のさまざまな性質の中でもコンパクト性は最も重要なものです。集合と位相の入門書では、コンパクト性の理解が一応の到達目標ということになると思います。コンパクト性の自然な拡張で、応用上もよく現れるのが局所コンパクト性で、ここまでは入門書でも解説されていることが多いでしょう。これに対して、パラコンパクト性については取り上げている本は専門書を除いては少なく、多様体を勉強する段になって唐突に現れ、何だか良くわからないうちに通り過ぎてしまうことも多いのではないでしょうか。

1 次元多様体の分類で現れた「長い直線」はパラコンパクトではない多様体です。しかし、このように頑張って例をつくろうとしない限り、眼の前に現れる多様体はパラコンパクトなものばかりであるのも事実です。これでは、パラコンパクト性が奇妙な例を排除するためにある消極的な概念であると思われても仕方がありません。そこで、今回はパラコンパクト性のもつ色々な性質を証明するのと同時に、パラコンパクト性を積極的に利用する手法にもふれたいと思います。

パラコンパクト性の定義は、「任意の開被覆が、局所有限な開被覆により細分される」というものです。したがって、パラコンパクト性についての諸性質を示すには、この被覆という集合族を集合算で操作するのが正攻法ということになります。これは強力な方法ではあるのですが、しばしば複雑になり見通しが悪くなりやすいという欠点もあります。幸いにして、パラコンパクト性には、次のような「1 の分割」を用いた特徴づけがあります。

定理.X を T_1 空間とするとき、X がパラコンパクト Hausdorff 空間であるためには、X の任意の開被覆に対して、それに従属する 1 の分割が存在することが必要十分である。

ここで、位相空間 X 上の 1 の分割とは、X 上の実数値連続関数の族 (f_\lambda)_{\lambda\in\Lambda} で、すべての x\in X,\, \lambda\in\Lambda に対して f_\lambda(x)\geqq 0,\, \sum_{\lambda\in\Lambda} f_\lambda(x)=1 を満たすようなもののことです。(ここでの無限和の意味や「従属する」の定義については PDF を参照してください。)多様体論では、1 の分割は滑らかな関数で作られました。この文脈では、1 の分割が局所的につくられた量を多様体全体へと大域的に拡張するのに使われます。最も有名なのは多様体上の Riemann 計量の存在証明でしょう。位相空間上の 1 の分割にも同様のはたらきがありますが、そればかりでなく、上の特徴づけ定理により、パラコンパクト性に関する諸性質の証明にも使うことができます。1 の分割は関数族であり、もともと演算で操作するのに適しているため、これを用いた証明には集合族を直接扱うよりも議論の見通しがよくなる利点があります(その反面、万能ではないのですが)。

さて、このように 1 の分割を理論展開の柱にしたうえで、今回の PDF ではパラコンパクト性の「積極的」利用法として、E. Michael による次の二つの結果を紹介します。

  • パラコンパクト空間上のある種の集合値関数から、連続関数を選びだすこと (Michael の選択定理)
  • パラコンパクト空間の局所的性質がある条件を満たすとき、それが大域的性質になるということ

これらはどちらも 1950 年代の非常に古い結果ですが、潜在的な応用範囲の広さのわりにあまり知られていないのではないかと思います。前者の簡単な応用として、Banach 空間の間の連続線型写像が全射であれば、そのセクションとして(必ずしも線型でない)連続写像が取れるという Bartle-Graves の定理を紹介します。また、後者の応用として、局所距離付け可能なパラコンパクト空間が距離付け可能なことの証明と、位相多様体の境界のカラー近傍の存在証明を挙げます。まだ探せば多くの応用例が見つかることでしょう。

以上はこの PDF にかなり特有の内容と思われますが、距離空間や CW 複体といったよく扱われる空間がパラコンパクトであることなど、標準的な事実の証明も含まれています。ただし、どちらもある意味で 1 の分割を利用したアプローチのため、多くの書物で見かけるものとは異なるかもしれません。距離空間のパラコンパクト性に関しては J. Dydak の比較的最近の結果に基づいており、CW 複体については Michael の選択定理がパラコンパクト性のもう一つの特徴づけを与えていることを利用します。また、最初の方では、より初等的な方法で証明される事実や、多様体でパラコンパクト性と同値になるいくつかの条件について議論します(後の方を見て大変だと感じる場合はこの辺を読むだけでも良いと思います)。

追記(2015年12月26日): 読者の方からの指摘をうけ、定理 9.1(局所距離付け可能なパラコンパクト Hausdorff 空間は距離付け可能)の証明を修正しました。貴重なご指摘をいただき有難うございました。

PDF「パラコンパクト性をめぐって」(2015 年 12 月 26 日修正)

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