1次元多様体の分類

トポロジーの最大の目標が位相空間の分類であるとすれば、その目標に最も力が注がれている空間のクラスは多様体であると言えるでしょう。大雑把には、位相空間 Mn 次元多様体であるというのは、M の各点が \mathbb{R}^n に同相な近傍をもつということです。曲線は 1 次元多様体、曲面は 2 次元多様体とみることができます。地球上に暮らしている私たちが、狭い範囲を行き来している分には地面を平面のように思って構わないことは、球面の 2 次元多様体としての性質を表しています。

しかし、多様体の定義にはさらなる制限がつくのが普通です。ほとんどの場合、多様体は Hausdorff 空間であることが要求されます。これは不自然な条件のようにも見えますが、この仮定なしには、1 次元多様体ですら分類には手が付けられなくなってしまいます。たとえば、次の例を見てみましょう。

例 (Y 字型の空間) 空間 X=\mathbb{R}\times\{0,1\} において、各 x<0 に対して  (x,0)(x, 1) とを同一視してえられる商空間を M とする。

この空間 M は直観的には、二本の数直線を用意してから、原点よりも左側の部分だけを貼り合わせて一本にしてできる空間です。原点は同一視されずに残っていて、M には二つの原点 p, q があることに注意しましょう。このとき、p の任意の近傍と、q の任意の近傍は原点の左側の貼り合わされた部分で交わってしまい、よって M は Hausdorff 空間ではありません。

しかし、Hausdorff 空間でないということを除いては、M は 1 次元多様体の条件を満たしています。一般的に、U\mathbb{R} の開集合とするときに、\mathbb{R}\times\{0,1\} において 各 x\in U に対して (x,0)(x,1) を同一視してできる空間は、「Hausdorff 空間とは限らない多様体」です。U を様々に取り換えるだけで、様々な互いに同相でない「1 次元多様体」が作られてしまうことからも、Hausdorff 性の重要さが分かると思います。

そこで、以下では Hausdorff 性は仮定することにしましょう。このとき 1 次元多様体の例としてすぐに思いつくのは、直線 \mathbb{R} と円周 \mathbb{S}^1 です。連結でないものを含めれば、直線と円周を並べただけのものも 1 次元多様体です。しかし、連結なものに限れば、1 次元多様体は \mathbb{R}\mathbb{S}^1の他にはない(ただし、同相なものは同じと考える)と考えるのはごく自然ではないでしょうか。

ところが、その期待に反して、これ以外に 2 種類の 1 次元多様体が存在します! 一つは「長い直線」\mathbb{L} であり、もう一つは「開いた長い半直線」\mathbb{L}_+ です。非常に大雑把にいえば、長い直線は、通常の直線に比べて両側に向かって、濃度の意味で「より長く」伸びています。

「より長く」の意味を理解するために、通常の数直線 \mathbb{R} の性質を思い出しましょう。\mathbb{R} は、両端に理想的な点 +\infty, -\infty を付加してコンパクト化することで、単位閉区間と同相な空間をつくることができます。このとき、新しい点 \pm\infty は、もちろん、\mathbb{R} の中の可算列の極限になっています。長い直線 \mathbb{L} にも同様のコンパクト化を行うことができるのですが、このとき、新しい端点 +\infty, -\infty は、\mathbb{L} の中のいかなる可算列の極限にもなっていません! つまり、長い直線の端はあまりに遠すぎて、可算のステップで到達することができないのです。

もう一つの開いた長い半直線 \mathbb{L}_+ は、単に長い直線を途中で切ってできるものです。つまり、\mathbb{L} から一点を除いたもののそれぞれの連結成分が \mathbb{L}_+(と同相な空間)です。\mathbb{L}_+ は一方の端には可算列で到達でき、もう一方の端には可算列で到達できないという非対称性をもちます。

長い直線は、ふつうの多様体に比べて、かなり奇妙な性質を示します。たとえば、長い直線はユークリッド空間に埋め込むことが不可能です。また、可微分多様体の構造を与えることはできますが Riemann 計量をもちません。そこで、長い直線に類するものを排除するために、多様体には Hausdorff 性に加えて「第二可算公理」「パラコンパクト性」「距離化可能性」「Lindelöf 性」などといった性質(これらは連結な多様体については互いに同値!)を仮定することがほとんどです。この性質を仮定すれば、連結な 1 次元多様体は \mathbb{R}\mathbb{S}^1 の二つだけです。しかし、最近ではこの制約を課さない、したがって長い直線も含んだ多様体の研究も行われています。2015 年に出版された Non-metrisable Manifolds という本は、この分野でのはじめての専門書です。

さて、Hausdorff 性だけを課した、第二可算公理などを課さない 1 次元多様体は、\mathbb{R}\mathbb{S}^1 のほかには \mathbb{L}, \mathbb{L}_+ の二つしかないことが知られています。この「分類定理」はある程度は良く知られた事実と思われ、志賀浩二「多様体論」ではそれを示すことが演習問題になっています。しかし、この本には詳しい解答はないようです。なんと、上で紹介した “Non-metrisable Manifolds” にも、分類定理の証明はありません(にもかかわらず、本文中では分類定理を断りなく使っています)。

下の PDF ファイルでは、このようにアクセスが困難な状態であった(と思われる) 「長くてもよい」1 次元多様体の分類定理の証明をまとめてみました。 このファイルの中に長い直線の定義やそれが多様体となることの証明も含まれています。なお、長い直線の定義を実際に理解するには順序数(とくに、最小の非可算順序数 \omega_1)についてある程度知っている必要があります。知らなかった方はこれを良い機会に集合論の教科書も読んでみてください!

1 次元多様体の分類 PDF

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1次元多様体の分類」への2件のフィードバック

  1. PDFファイルp.2最後の部分でx,yをMの開集合で分離していますが、x≠yを満たしますか。
    k:同相写像、φ=k○h^(-1)、φ(a)=αより、y=k^(-1)(α)=k^(-1)(φ(a))=h^(-1)(a)=xとなりませんか。

    いいね

    • ご意見ありがとうございます。

      x ≠ y を満たすことについては問題ないはずです。
      開区間 (a, b) は R の開集合 h(U ∩ V) の連結成分なので a ∉ h(U ∩ V) であり、
      したがって、x=h^{-1}(a) ∉ U ∩ V ですが、h の定義域は U だったので、
      x ∈ U であり、したがって x ∉ V です。
      他方、k の定義域は V だったので、y = k^{-1}(α) ∈ V です。

      以上から x ∉ V と y ∈ V が成り立つので必然的に x ≠ y です。

      なお、x = y が導かれるように見える式変形についてですが、
      φ = kh^{-1} は開区間 (a, b) 上で成り立っている式で、
      それを [a, b] 上に拡張定義したものについては成り立たないという問題があります
      (そもそも、kh^{-1}(a) は定義されません)。

      いいね

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