PLトポロジーの基礎

「PL トポロジーの基礎(暫定版)」で公開した PDF を切りのよいところまで書き上げることができたと思うので、新しいバージョンを公開したいと思います。(でも、これで完成版とはあえて言わないことにします。)

まず、暫定版では PL 多様体の節が “Coming Soon(?)” となっていたので、その部分を実際に書いたことが一番の変更点です。また、既存の部分も改めて自分で読み直してみたところ、書き間違いや証明の不備もあることが分かったので、それらを出来る限り直しました。暫定版と同じ大きめの字で書かれたバージョン(12 ポイント版)のほかに、全体を見渡すのに便利なように字を小さくしたバージョン(10 ポイント版)も一緒に公開します。

PL トポロジー PDF(12 ポイント版)

PL トポロジー PDF(10 ポイント版)

相変わらず図はありません。すみません。

さて、すでに暫定版で公開している内容とも重なっていますが、今回の PDF に書かれていることの概要をまとめてみたいと思います。

第1節「多面体と PL 写像」についてPL トポロジーが取り扱う幾何的対象は「多面体」と呼ばれるものです。これはユークリッド空間内の三角形分割な図形と説明するのが簡単ですが、ここでは三角形分割に依存しない「内在的」な定義をします。そこで重要になるのが「錐」の構造です。ユークリッド空間 \mathbb{R}^n において、点 a と、それを含まない集合 B が与えられているとき、線分 abb\in B にわたる和集合を aB と書きます。この aB の点が(a を除いて)(1-t)a+tb (t\in [0,1], b\in B) の形に一意的に表される状況を、「aB は錐である」と表現します。第1節の冒頭では、錐構造を用いて多面体を次のように定義します。

多面体の定義 \mathbb{R}^n の部分集合 P が多面体であるとは、P の各点 a に対して、P のコンパクト部分集合 B をうまく取ると、aB が錐となり、かつ aP における近傍をなすようにできることをいう。

さらに、多面体のもつ「局所錐構造」を保つ連続写像として、PL 写像が定義されます。こうして、多面体と PL 写像のなす圏が定義されると、その圏での同型射として、PL 同相写像が定義されます。こうして、PL トポロジーは多面体を PL 同相で分類する分野であるという粗っぽい定義が可能になります。なお、ここまでの知識で PL 多様体の定義を述べることができるので、そのまま第3節の最初の部分を読むことが可能です。

第2節「単体複体と単体写像」についてPL トポロジーは三角形分割された図形の幾何学だと言われることがよくあります。実際、多面体はつねにある単体複体により三角形分割され、そのような三角形分割を適切にとるとき、固有な(コンパクト集合の逆像がコンパクトな)PL 写像は単体写像として表されることが証明できます。とくに、コンパクトな多面体の間の PL 写像は単体写像となります。

以上の事実の証明が第2節の目標ですが、そのために、単体複体やその拡張である胞体複体の細分についての基本的な事実を地道に証明していくことになります。ここで、胞体複体とは、単体複体において単体よりも一般にコンパクトな凸多面体を構成要素に許したものです。例えば、K, L がともに \mathbb{R}^n 内の胞体複体であるとき、その「共通部分」

\{C\cap D\,|\,C\in K,\, D\in L\}

が再び胞体複体になることが証明できます。これは単体複体にはない性質です。このことを用いて、例えば、多面体の二つの三角形分割(単体複体による分割)が共通細分をもつことを証明できます。すなわち、上記のような共通部分として胞体複体を作ったのち、それを単体複体で細分すればいいのです。

第3節「PL多様体」について第3節では PL 多様体の基本性質を調べます。まず、定義は次の通りです。

PL多様体の定義 多面体 Mn 次元PL多様体であるとは、M の開被覆 \mathcal{U} が存在して、各 \mathcal{U} の各メンバーが上半空間 \mathbb{R}^n_+=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\} のある開集合にPL同相となることをいう。

ここでは、「多様体」といえば「境界付きかもしれない多様体」を意味する幾何学的トポロジーの流儀を取りました。境界のない多様体の定義は、上の定義の \mathbb{R}^n_+\mathbb{R}^n に置き換えたものです。

上では PL 多様体を多面体の言葉で述べましたが、多面体を三角形分割する単体複体はある特定の性質を満たすことが示されます。その性質を抽出したものが組合せ多様体の概念です。

組合せ多様体の定義 単体複体 Kn 次元組合せ多様体であるとは、Kの任意の頂点v に対して、スター |\mathrm{st}(v,K)|n 次元単体と PL 同相になることをいう。

定理 単体複体 K に対して、その多面体 |K|n 次元PL多様体であるためには Kn 次元組合せ多様体であることが必要十分である。

この定理を示すためには、単体複体の頂点のリンクの PL 同相型が、単体複体の細分について不変であることを証明しなくてはなりません。そのためには、頂点からの放射投影を用いるのが自然ですが、それは一般に PL 写像とならないため、それを修正した擬放射投影 (pseudo-radial projection) が用いられます(放射投影を PL 写像と勘違いすることは PL トポロジーの初期の文献に多く見られ、Zeeman がこれを指摘したため、Zeeman’s standard mistake という名前まで付いています。なお Zeeman がこの間違いをしたわけではないので注意が必要です)。これは技術的に重要な部分ですが、多くの文献ではあまり丁寧に書かれていないように思われます。

最後に、PL 多様体は、可微分多様体の通常の定義と同じように、座標変換が PL 同相写像であるような座標近傍の族を与えることでも定義できます。これは多くの文献で採用されていて、あまり PL トポロジーの内容に深入りしないで説明したい場合に便利に使われるように思います。私は、この定義といままでの定義が同値であるかどうかを疑問に思う読者は多いと考えました。そこで、その同値性が意味するところを定式化し、証明を与えることにしました。

 

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PLトポロジーの基礎(暫定版)

久しぶりの投稿です。今回は、位相空間論から幾何学的トポロジーの方向に少し舵を切りたいと思います。PLトポロジーは多様体などを三角形分割を通して研究する分野です。そこで扱われる対象は「多面体」とよばれる三角形分割可能な図形であり、扱われる写像は「PL写像」とよばれるもので、これは定義域の適切な三角形分割について各単体をアフィン写像でうつすような写像をいいます。例えば、\mathbb{R}から\mathbb{R}へのPL写像は、グラフが折れ線である関数と同じものです。ちなみに、PL とは Piecewise Linear の略であり区分線型と訳すこともあります。もっと正確には Piecewise Affine とすべきかもしれませんが。

今回の PDF では、Rourke-Sanderson による Introduction to Piecewise-Linear Topology (以下 [RS] と書く)という古典的名著を大いに参考とし、多面体も PL 写像も三角形分割によらず内在的に定義するスタイルを取りました。[RS] はこのスタイルを貫くことで大変美しく書かれているのですが、私の PDF でそれが実現できているかは自信がありません。しかし、[RS] をはじめとする PL トポロジーの成書に多かった議論のギャップをほとんど埋めることには成功していると信じています。結び目理論・3 次元多様体論の基礎付けなどで PL トポロジーが必要になり、本を手に取ってはみたが証明が追えなかった、などという人には助けになるかもしれません。

なお、この PDF の内容は、多面体・PL写像と単体複体・単体写像との関係を述べるという最低限の内容にとどまっています。実は、このPDFを作った動機は、2次元・3次元多様体の三角形分割について説明するときに、三角形分割やその細分に関する諸事実の証明が意外に大変で、これは場所を改めてやるべきだと感じたことでした。そういう動機もあって、ここでまとめられていることは、PLトポロジー本来の内容というよりも、それを展開するための基礎といったものになっています。定理の内容も、ていねいに絵を描いて考えれば明らかと思ってもらえるものが多いと思います。

このPDFは暫定版です。本当はもっと完成度を高めてから出したかったのですが、早く読んでもらいたい気持ちもありますし、公開の時期を逃したくなかったのでこの状態でとりあえず公開します。この後は、微分トポロジーでの可微分多様体に対応する PL 多様体の定義と基本事項について書きたいと思っています(これをまだ書いていないのに PL トポロジーの基礎を銘打つべきではないかもしれません)。また、絵がないのはこのPDFの致命的な欠点です!!(非常に見栄えのする絵が描けるのが PL トポロジーの特徴です)これも何とかしたいところです。もっとも、絵がないことで、議論のごまかしをしていないことのアピールにはなっているかもしれませんが…。読むときには各自手元で絵を描くことを強くおすすめします。

追記:2018年5月6日、PLトポロジーPDFの新しいバージョンを公開しました。PLトポロジーの基礎でダウンロードできます。PL多様体の記述が追加されたほか、証明の不備や誤植も修正しましたので、以後はこれを参照して下さい。暫定版は今後公開を終了する予定です。

PDF「PLトポロジーの基礎(暫定版)」

 

位相空間論における反例と線形順序

位相空間論ではさまざまな例が全順序(またの名を、線形順序)を伴って構成されます。たとえば、実数直線 \mathbb{R} の通常の位相は開区間 (a,b) の全体で生成されます。これを少し変更して、実数直線に [a,b) の形の半開区間の全体で生成される位相を入れたものは Sorgenfrey 直線と呼ばれ、反例としてよく引用されるものです。これは例えば、それ自身はパラコンパクト Hausdorff だがその平方はパラコンパクトでないような空間の簡単な例になっています。

1 次元多様体で距離化可能でないものの例として、長い直線を以前に取り上げました。これも、全順序集合に開区間全体から生成される位相を入れたものです。長い直線の構成で重要だったのは、最小の非可算順序数 \omega_1 です。この \omega_1 に開区間から生成される位相を入れたものは、位相空間論で非常に汎用性の高い反例です。とくに、パラコンパクト性を一般化して得られる様々な性質が \omega_1 では成り立たない(\omega_1 は非パラコンパクト性が高い!)ことが知られています。

また、少し変わった例として Michael 直線というものがあります。これも土台となる集合は実数直線ですが、通常の開区間に加えて、各無理数 q について 1 点集合 \{q\} も開集合であるとして得られる位相が入っています。Michael 直線は正規空間となりますが、ある距離空間 M との直積が正規空間となりません。実際、そのような M として、通常の位相が入った無理数全体 \mathbb{R}\setminus\mathbb{Q} を取ることができます。この例は正規性が積について非常に保たれにくいことを示す例といえます。

以上の例のうち、実数直線・長い直線・\omega_1 は全順序集合に開区間すべてで生成される位相を入れたものです。このような位相空間を、線形順序空間 (linearly ordered space) といいます。

Sorgenfrey 直線や Michael 直線はもう少し複雑です。これらは、全順序集合において、その順序に関する凸集合(つまり a,b\in E,\, a<x<b \implies x\in E を満たすような E)の族を一つ指定し、それで生成される位相を入れたものになっています。このような位相空間を、GO 空間 (Generalized ordered space, GO-space) と呼んでいます。もちろん、線形順序空間は、GO 空間です。

このように、位相空間の主要な反例と考えられているものが、線形順序空間、あるいはより一般に GO 空間となっています。

今回の PDF では、このような反例について最初は個別に性質を見ていき、中盤にさしかかった辺りで線形順序空間と GO 空間の一般論を展開し、ある種の強い正規性(継承的族正規性)など統一的に証明できる性質を示していきます。また、GO 空間は、空間のクラスとして、線形順序空間の部分空間と同じものであることも示されます(PDF ではこちらを GO 空間の定義として採用しています)。

さらに全順序集合の完備化のテクニックを用いて、任意の GO 空間があるコンパクトな線形順序空間に稠密に埋め込まれることをみます。これは、GO 空間についての命題を線形順序空間に帰着するために用いられます。

最後に、GO 空間のクラスにおいて、位相空間のさまざまな可算性(可分性・リンデレフ性など)の間の相互関係(つまり、どの性質からどの性質に含意 \implies があるか)を調べます。図を見れば一目瞭然なのですが、一般の空間の場合に比べて、GO 空間の可算性は非常に簡単な一直線の(線形順序をなして並んだ!)含意関係があります。

この議論の過程で自然に生じる問題の中には、集合論から独立であることが分かっているものが多くあります。例えば、含意関係のなす図式で \implies と書かれている場合、\Longleftarrow には反例がある場合もありますが、反例の有無がそもそも集合論から独立であると分かっている場合もあります。独立性証明については現状の筆者の能力を越えていますが、知られている事実については必要に応じてまとめました。

PDF「位相空間論における反例と線形順序」

コンパクト開位相をめぐって

連続写像の空間に入れる位相としてコンパクト開位相が広く用いられています。これは基本的な構成の一つと言ってもいいと思いますが、位相空間論の初歩的なテキストでは軽くふれる程度の扱いが普通ではないかと思います。また、準開基により生成される位相として定義されるために、取り扱いが苦手だという声もよく聞きます。

コンパクト開位相の定義については、なぜそう定義すべきなのかピンと来ない人も多いと思います。そこで今回の PDF では、まず、関数空間の位相としてコンパクト開位相を用いる必然性を説明します。コンパクト開位相は定義域の空間が局所コンパクト Hausdorff 空間であるときに特に良い性質をもちますが、この局所コンパクト性も、ある意味で必然的な要請であることが証明されます。

コンパクト開位相による収束を実際に扱うためには、距離を用いる方法が便利な場合もあります。そこで、コンパクト開位相が距離化可能となるための一つの十分条件を述べます。ここで重要となるのは定義域の半コンパクト性 (hemicompactness) という性質であり、この条件は再びある意味で必然的であることが示されます。また、ある場合にコンパクト開位相を「広義一様収束の位相」と解釈できることを見ます。さらに、完備距離可能性についても考察します。

最後に、位相空間の(自己)同相群が、コンパクト開位相に関して位相群となる十分条件を述べます。局所コンパクト Hausdorff 空間の同相群は、コンパクト開位相について常にパラ位相群(乗法が連続)となりますが、逆元をとる操作は必ずしも連続ではなく、一般に位相群にはなりません。そのための追加の条件として、局所連結性が比較的よく知られていましたが、ここでは比較的最近 Dijkstra によって知られたより弱い条件について紹介します。

PDF「コンパクト開位相をめぐって」

2017年12月24日追記:4 ページ、定理 1.8 の前の Tychonoff 空間の定義で、f|_{X\setminus F}=0 となっているのは f|_F=0 の間違いです。

パラコンパクト性 PDF

位相空間のさまざまな性質の中でもコンパクト性は最も重要なものです。集合と位相の入門書では、コンパクト性の理解が一応の到達目標ということになると思います。コンパクト性の自然な拡張で、応用上もよく現れるのが局所コンパクト性で、ここまでは入門書でも解説されていることが多いでしょう。これに対して、パラコンパクト性については取り上げている本は専門書を除いては少なく、多様体を勉強する段になって唐突に現れ、何だか良くわからないうちに通り過ぎてしまうことも多いのではないでしょうか。

1 次元多様体の分類で現れた「長い直線」はパラコンパクトではない多様体です。しかし、このように頑張って例をつくろうとしない限り、眼の前に現れる多様体はパラコンパクトなものばかりであるのも事実です。これでは、パラコンパクト性が奇妙な例を排除するためにある消極的な概念であると思われても仕方がありません。そこで、今回はパラコンパクト性のもつ色々な性質を証明するのと同時に、パラコンパクト性を積極的に利用する手法にもふれたいと思います。

パラコンパクト性の定義は、「任意の開被覆が、局所有限な開被覆により細分される」というものです。したがって、パラコンパクト性についての諸性質を示すには、この被覆という集合族を集合算で操作するのが正攻法ということになります。これは強力な方法ではあるのですが、しばしば複雑になり見通しが悪くなりやすいという欠点もあります。幸いにして、パラコンパクト性には、次のような「1 の分割」を用いた特徴づけがあります。

定理.X を T_1 空間とするとき、X がパラコンパクト Hausdorff 空間であるためには、X の任意の開被覆に対して、それに従属する 1 の分割が存在することが必要十分である。

ここで、位相空間 X 上の 1 の分割とは、X 上の実数値連続関数の族 (f_\lambda)_{\lambda\in\Lambda} で、すべての x\in X,\, \lambda\in\Lambda に対して f_\lambda(x)\geqq 0,\, \sum_{\lambda\in\Lambda} f_\lambda(x)=1 を満たすようなもののことです。(ここでの無限和の意味や「従属する」の定義については PDF を参照してください。)多様体論では、1 の分割は滑らかな関数で作られました。この文脈では、1 の分割が局所的につくられた量を多様体全体へと大域的に拡張するのに使われます。最も有名なのは多様体上の Riemann 計量の存在証明でしょう。位相空間上の 1 の分割にも同様のはたらきがありますが、そればかりでなく、上の特徴づけ定理により、パラコンパクト性に関する諸性質の証明にも使うことができます。1 の分割は関数族であり、もともと演算で操作するのに適しているため、これを用いた証明には集合族を直接扱うよりも議論の見通しがよくなる利点があります(その反面、万能ではないのですが)。

さて、このように 1 の分割を理論展開の柱にしたうえで、今回の PDF ではパラコンパクト性の「積極的」利用法として、E. Michael による次の二つの結果を紹介します。

  • パラコンパクト空間上のある種の集合値関数から、連続関数を選びだすこと (Michael の選択定理)
  • パラコンパクト空間の局所的性質がある条件を満たすとき、それが大域的性質になるということ

これらはどちらも 1950 年代の非常に古い結果ですが、潜在的な応用範囲の広さのわりにあまり知られていないのではないかと思います。前者の簡単な応用として、Banach 空間の間の連続線型写像が全射であれば、そのセクションとして(必ずしも線型でない)連続写像が取れるという Bartle-Graves の定理を紹介します。また、後者の応用として、局所距離付け可能なパラコンパクト空間が距離付け可能なことの証明と、位相多様体の境界のカラー近傍の存在証明を挙げます。まだ探せば多くの応用例が見つかることでしょう。

以上はこの PDF にかなり特有の内容と思われますが、距離空間や CW 複体といったよく扱われる空間がパラコンパクトであることなど、標準的な事実の証明も含まれています。ただし、どちらもある意味で 1 の分割を利用したアプローチのため、多くの書物で見かけるものとは異なるかもしれません。距離空間のパラコンパクト性に関しては J. Dydak の比較的最近の結果に基づいており、CW 複体については Michael の選択定理がパラコンパクト性のもう一つの特徴づけを与えていることを利用します。また、最初の方では、より初等的な方法で証明される事実や、多様体でパラコンパクト性と同値になるいくつかの条件について議論します(後の方を見て大変だと感じる場合はこの辺を読むだけでも良いと思います)。

追記(2015年12月26日): 読者の方からの指摘を受け、定理 9.1(局所距離付け可能なパラコンパクト Hausdorff 空間は距離付け可能)の証明を修正しました。貴重なご指摘をいただき有難うございました。

追記(2018年3月28日):読者の方からの指摘を受け、定理 5.2(Nagata-Smirnov の距離付け定理)の証明を修正しました。貴重なご指摘をいただき有難うございました。

PDF「パラコンパクト性をめぐって」(2018 年 3 月 28 日修正)

1次元多様体の分類

トポロジーの最大の目標が位相空間の分類であるとすれば、その目標に最も力が注がれている空間のクラスは多様体であると言えるでしょう。大雑把には、位相空間 Mn 次元多様体であるというのは、M の各点が \mathbb{R}^n に同相な近傍をもつということです。曲線は 1 次元多様体、曲面は 2 次元多様体とみることができます。地球上に暮らしている私たちが、狭い範囲を行き来している分には地面を平面のように思って構わないことは、球面の 2 次元多様体としての性質を表しています。

しかし、多様体の定義にはさらなる制限がつくのが普通です。ほとんどの場合、多様体は Hausdorff 空間であることが要求されます。これは不自然な条件のようにも見えますが、この仮定なしには、1 次元多様体ですら分類には手が付けられなくなってしまいます。たとえば、次の例を見てみましょう。

例 (Y 字型の空間) 空間 X=\mathbb{R}\times\{0,1\} において、各 x<0 に対して  (x,0)(x, 1) とを同一視してえられる商空間を M とする。

この空間 M は直観的には、二本の数直線を用意してから、原点よりも左側の部分だけを貼り合わせて一本にしてできる空間です。原点は同一視されずに残っていて、M には二つの原点 p, q があることに注意しましょう。このとき、p の任意の近傍と、q の任意の近傍は原点の左側の貼り合わされた部分で交わってしまい、よって M は Hausdorff 空間ではありません。

しかし、Hausdorff 空間でないということを除いては、M は 1 次元多様体の条件を満たしています。一般的に、U\mathbb{R} の開集合とするときに、\mathbb{R}\times\{0,1\} において 各 x\in U に対して (x,0)(x,1) を同一視してできる空間は、「Hausdorff 空間とは限らない多様体」です。U を様々に取り換えるだけで、様々な互いに同相でない「1 次元多様体」が作られてしまうことからも、Hausdorff 性の重要さが分かると思います。

そこで、以下では Hausdorff 性は仮定することにしましょう。このとき 1 次元多様体の例としてすぐに思いつくのは、直線 \mathbb{R} と円周 \mathbb{S}^1 です。連結でないものを含めれば、直線と円周を並べただけのものも 1 次元多様体です。しかし、連結なものに限れば、1 次元多様体は \mathbb{R}\mathbb{S}^1の他にはない(ただし、同相なものは同じと考える)と考えるのはごく自然ではないでしょうか。

ところが、その期待に反して、これ以外に 2 種類の 1 次元多様体が存在します! 一つは「長い直線」\mathbb{L} であり、もう一つは「開いた長い半直線」\mathbb{L}_+ です。非常に大雑把にいえば、長い直線は、通常の直線に比べて両側に向かって、濃度の意味で「より長く」伸びています。

「より長く」の意味を理解するために、通常の数直線 \mathbb{R} の性質を思い出しましょう。\mathbb{R} は、両端に理想的な点 +\infty, -\infty を付加してコンパクト化することで、単位閉区間と同相な空間をつくることができます。このとき、新しい点 \pm\infty は、もちろん、\mathbb{R} の中の可算列の極限になっています。長い直線 \mathbb{L} にも同様のコンパクト化を行うことができるのですが、このとき、新しい端点 +\infty, -\infty は、\mathbb{L} の中のいかなる可算列の極限にもなっていません! つまり、長い直線の端はあまりに遠すぎて、可算のステップで到達することができないのです。

もう一つの開いた長い半直線 \mathbb{L}_+ は、単に長い直線を途中で切ってできるものです。つまり、\mathbb{L} から一点を除いたもののそれぞれの連結成分が \mathbb{L}_+(と同相な空間)です。\mathbb{L}_+ は一方の端には可算列で到達でき、もう一方の端には可算列で到達できないという非対称性をもちます。

長い直線は、ふつうの多様体に比べて、かなり奇妙な性質を示します。たとえば、長い直線はユークリッド空間に埋め込むことが不可能です。また、可微分多様体の構造を与えることはできますが Riemann 計量をもちません。そこで、長い直線に類するものを排除するために、多様体には Hausdorff 性に加えて「第二可算公理」「パラコンパクト性」「距離化可能性」「Lindelöf 性」などといった性質(これらは連結な多様体については互いに同値!)を仮定することがほとんどです。この性質を仮定すれば、連結な 1 次元多様体は \mathbb{R}\mathbb{S}^1 の二つだけです。しかし、最近ではこの制約を課さない、したがって長い直線も含んだ多様体の研究も行われています。2015 年に出版された Non-metrisable Manifolds という本は、この分野でのはじめての専門書です。

さて、Hausdorff 性だけを課した、第二可算公理などを課さない 1 次元多様体は、\mathbb{R}\mathbb{S}^1 のほかには \mathbb{L}, \mathbb{L}_+ の二つしかないことが知られています。この「分類定理」はある程度は良く知られた事実と思われ、志賀浩二「多様体論」ではそれを示すことが演習問題になっています。しかし、この本には詳しい解答はないようです。なんと、上で紹介した “Non-metrisable Manifolds” にも、分類定理の証明はありません(にもかかわらず、本文中では分類定理を断りなく使っています)。

下の PDF ファイルでは、このようにアクセスが困難な状態であった(と思われる) 「長くてもよい」1 次元多様体の分類定理の証明をまとめてみました。 このファイルの中に長い直線の定義やそれが多様体となることの証明も含まれています。なお、長い直線の定義を実際に理解するには順序数(とくに、最小の非可算順序数 \omega_1)についてある程度知っている必要があります。知らなかった方はこれを良い機会に集合論の教科書も読んでみてください!

1 次元多様体の分類 PDF

局所コンパクト空間と exponentiability

Twitter のタイムラインを見て、考えたことを書いてみます。

位相空間 X から位相空間 Y への連続写像全体にコンパクト開位相を導入したものを Y^X と書くとき、次の事実は代数的トポロジーで非常によく使われます。

定理. Y を局所コンパクト Hausdorff 空間とするとき、任意の位相空間 X, Z に対して、自然な全単射 Z^{X\times Y}\cong (Z^X)^Y がある。

圏論的には、この事実を「局所コンパクト Hausdorff 空間は、位相空間の圏 \mathbf{Top} において exponentiable である」と表現することができます。

実は、これには逆が成り立ちます。圏論有名サイトの nLab によると位相空間の圏で exponentiable であることは “core compact” であることと同値であり、また、Hausdorff 空間が core compact であることは局所コンパクトであることと同値です。

したがって、定理の全単射が任意の位相空間 X, Z について存在するような Hausdorff 空間 Y は、そもそも局所コンパクトでなければなりません。

このことは少し考えれば自分でも示せると思っていたのですが、案外そうでもありませんでした。結局考え続けた結果、Ernest Michael の論文を参照して仕上げることになりました(Michael は位相空間論で多くの重要な仕事をしています)。 完全に自力で出来なかったのは残念です。

局所コンパクト空間と exponentiability

上の PDF ファイルにまとめました。話題を提供していただいた方に感謝します。