連分数展開による無理数空間と自然数列の空間の同相性の証明

無理数全体の空間 \mathbb{R}\setminus\mathbb{Q} と、可算離散空間の可算積 \mathbb{N}^\mathbb{N} は、0と1の間にある無理数が一意的な連分数展開をもつという事実に基づいて証明することができます。このことは、以前に公開した 位相空間論における反例と線形順序 の PDF の 8~9 ページでもふれましたが、そこでは「写像の構成をよく見て示すことができる」として、詳細は述べませんでした。今回の PDF では詳細な証明を述べたいと思います。読むにあたって連分数についての予備知識は必要ありません。

PDF「連分数展開による無理数空間と自然数列の空間の同相性の証明」

4次元空間で結び目をほどく

数学的な意味での結び目とは、円周 S^1 の 3 次元 Euclid 空間 \mathbb{R}^3 への埋め込みのことです。二つの結び目は、「\mathbb{R}^3 の中で連続的に動かすことで移り合う」とき、同じ結び目であるとみなされます(このことは「アイソトピー」という概念により正確に定義されます)。3 次元空間の中で 1 次元の円周を動かすことには大きな制約が伴い、その結果、多種多様な結び目が存在します。

ここで、3 次元空間内に収まっていた結び目 f\colon S^1\to\mathbb{R}^3 を、より広い 4 次元空間の中で動かせると考えてみます。これは数学的には、写像 \iota\colon \mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^4\iota(x,y,z)=(x,y,z,0) で定義したとして、f の代わりに \iota\circ f\colon S^1\to\mathbb{R}^4 を考えることに相当します。すると、移動の自由度が増すため、元々互いに移り合うことのなかった結び目同士が互いに移り合うことができます。実際、結び目が紐でできていると思えば、第 4 の座標軸を使って紐どうしが互いにすり抜けるかのような動きが可能となり、3 次元空間内のどんな二つの結び目も、4 次元空間内で動かすことによって移り合うことができます。

いま太字で述べたことは、いかにも絵での説明との相性がよく、厳密な証明になじまないようにも思えます。しかし実際には、今回の PDF で説明するように、絵の助けも必要とせず、きちんと定式化した上で位相空間論の範囲に収まる手法で証明できます。ここで主に必要となる事柄は、実数値関数に対する Tietze の拡張定理(今回の PDF の定理2.7)と、アイソトピーの一点コンパクト化への拡張(同命題2.3)です。後者は一見明らかなようで証明にかなり手数を要することが筆者にとって意外でした。

PDF「4次元空間で結び目をほどく」

Hilbert立方体の等質性

Hilbert 立方体とは、単位閉区間 I=[0,1] を可算無限個直積して得られる直積空間 I^\mathbb{N} のことです。これは「無限次元の立方体」というべきものですが、有限次元の立方体 I^n にはない性質があります。

位相空間 X が等質であるとは、任意の x, y\in X に対して同相写像 h\colon X\to Xh(x)=y となるものが存在することをいいます。有限次元の立方体 I^n は等質ではありません。実際、立方体の内部 (0,1)^n の点を境界 \partial I^n=I^n\setminus (0,1)^n の点にうつすような同相写像 I^n\to I^n は存在しません(これは、n=1, 2, 3 の場合を考えれば図形的にもっともらしいですが、ホモロジー論から証明できます)。

これに対して、Hilbert 立方体 I^\mathbb{N} は等質です。一見、Hilbert 立方体にも「内部」(0,1)^\mathbb{N} と「境界」I^\mathbb{N}\setminus (0,1)^\mathbb{N} があるように見えてしまいますが、そう定義したとしても「内部」の点を「境界」の点にうつす同相写像 I^\mathbb{N}\to I^\mathbb{N} が存在してしまいます。

今回の PDF では、Hilbert 立方体が等質であることの証明を目標とします。そのためには、上のような同相写像の存在を示すことが必要になりますが、それに用いられる手法が最大の見どころです。

PDF「Hilbert 立方体の等質性」

射影空間のHausdorff性

実射影空間 \mathbb{R}P^n や複素射影空間 \mathbb{C}P^n が可微分多様体であることを示すためには、それらが Hausdorff 空間であることを示さなければなりません。しかし、この証明には意外に手こずるものです。ここでは、商空間が Hausdorff となる十分条件についてのちょっとした一般論を準備することによって、具体的な考察を最小限にとどめて射影空間の Hausdorff 性を証明することを試みます。

今回の PDF ファイルは、位相についての必要事項をいままでよりも詳しく説明したつもりです。予備知識のある読者の方は、最後の節から読み始めてもよいかもしれません。

PDF「射影空間の Hausdorff 性」

2次元多様体を三角形分割する

今回は、前に公開した PLトポロジーの基礎 のPDFファイルで示された結果を利用して、任意の(境界をもってもよい)2 次元位相多様体が三角形分割をもつことを証明します。可能な限り、証明中に不明瞭な点がないように注意したつもりですが、ご意見があればお願いします。

PDF「2 次元多様体を三角形分割する」

単位閉区間と円周の位相的特徴づけ

単位閉区間と円周については、次のような特徴づけが知られています。

定理A. X を 2 点以上の点からなるコンパクト・連結・距離化可能な空間とする。このとき、X が単位閉区間 [0,1] と同相であるためには、X\setminus\{p\} が連結であるような点 p\in X の個数が 2 個以下であることが必要十分である。

定理B. Xを 2 点以上の点からなるコンパクト・連結・距離化可能な空間とする。このとき、X が円周 S^1=\{(x,y)\,|\,x^2+y^2=1\} と同相であるためには、任意の異なる p, q\in X に対して X\setminus\{p, q\} が連結でないことが必要十分である。

これらの定理は、1916 年から 1920 年にかけて証明されたもので、前に扱ったカントール集合と有理数空間の特徴づけ(カントール集合については 1910 年、有理数空間については 1920 年)とともに、点集合論トポロジーの黎明期の結果に挙げることができます。これらは次元論が本格的にはじまる直前の時代の結果ということになるようです。

今回は上の定理 A, B の証明について紹介します。

PDF「単位閉区間と円周の位相的特徴づけ」

全射な曲線と単射な曲線

正方形を埋めつくすことで知られる Peano 曲線は、単位閉区間 I=[0,1] から正方形 I^2 への全射な連続写像です。このような曲線の発見は、次元論PDFでもふれた通り、次元の概念をゆるがす一つの出来事でした。今回のPDFでは、単位閉区間の連続像として表される (Hausdorff) 空間のクラスを特徴づける次の古典的な定理を紹介します。

定理A (Hahn-Mazurkiewicz の定理). Hausdorff 空間 X に対して、全射な連続写像 f\colon [0,1]\to X が存在するためには、 X が局所連結かつ連結でコンパクトな距離化可能空間であることが必要十分である。

この定理により、n 次元立方体 I^n や無限次元の Hilbert 立方体 I^\omega などが単位閉区間の連続像であることがすぐにわかります。その一方で、上の定理は、そのような連続像として表される空間には、連結性・コンパクト性のほかに「局所連結性」という制約があることを示しています。たとえば、下は「ワルシャワの円」という名で知られる局所連結でない空間ですが、これは決して単位閉区間の連続像で表すことができません。

上の定理Aは、空間に全射な曲線をつくる定理でした。今回紹介するもう一つの定理Bは、空間に単射な曲線をつくる定理です。

定理B. 弧状連結な Hausdorff 空間 X の任意の異なる二点 a,b\in X に対して、ある単射な連続写像 f\colon [0,1]\to Xf(0)=a,\, f(1)=b となるものが存在する。

この定理は、定理Aの証明と共通のテクニックを使って示すことができます。

最後の「余談」では、定理Aの証明に用いた局所連結性についての知識の簡単な応用として、ワルシャワの円のすべてのホモトピー群が自明であることなどを示します。

PDF「全射な曲線と単射な曲線」

カントール集合と有理数空間の位相的特徴づけ

今回は、次の二つの定理を証明します。

定理 A. (Brouwer) 完全不連結で孤立点をもたず空でないコンパクト距離空間は、カントール集合と同相である。

定理 B. (Sierpiński) 可算無限個の点からなり孤立点をもたない距離空間は、有理数全体の空間 \mathbb{Q} と同相である。

具体的な位相空間を、いくつかの簡単な位相的性質の組み合わせによって特徴づける定理には比較的簡単なものから、非常に難しいものまであります。「コンパクトで境界のない単連結な 3 次元多様体は 3 次元球面と同相である」というポアンカレ予想も、そのような定理の一種であるといえます。ここでは、最も簡単な部類に入ると思われる二つの古典的な特徴づけ定理を取り上げました。

PDF「カントール集合と有理数空間の特徴づけ」

一点コンパクト化上の距離

距離空間 (X,d) が局所コンパクトであるときには、一点コンパクト化 X^+=X\cup\{\infty\} が存在します。さらに X が可分である場合は、一点コンパクト化は距離化可能となりますが、X 上のもともとの距離 d からきまる自然な(位相に合致した)距離をもつわけではありません。それでも d とある程度よい関係にある距離を X^+ 上に構成できると好都合なことがあります。一点コンパクト化は元の空間を「縮めて」から無限遠点 \infty を付加する操作であると考えると、X 上で不等式 d^+\leq d を満たすような X^+ 上の距離 d^+ が存在すると期待できます。この辺について PDF に書いてみました。

PDF「一点コンパクト化上の距離について」

PLトポロジーの基礎

「PL トポロジーの基礎(暫定版)」で公開した PDF を切りのよいところまで書き上げることができたと思うので、新しいバージョンを公開したいと思います。(でも、これで完成版とはあえて言わないことにします。)

まず、暫定版では PL 多様体の節が “Coming Soon(?)” となっていたので、その部分を実際に書いたことが一番の変更点です。また、既存の部分も改めて自分で読み直してみたところ、書き間違いや証明の不備もあることが分かったので、それらを出来る限り直しました。暫定版と同じ大きめの字で書かれたバージョン(12 ポイント版)のほかに、全体を見渡すのに便利なように字を小さくしたバージョン(10 ポイント版)も一緒に公開します。

PL トポロジー PDF(12ポイント版)

PL トポロジー PDF(10ポイント版)

相変わらず図はありません。すみません。

さて、すでに暫定版で公開している内容とも重なっていますが、今回の PDF に書かれていることの概要をまとめてみたいと思います。

第1節「多面体と PL 写像」についてPL トポロジーが取り扱う幾何的対象は「多面体」と呼ばれるものです。これはユークリッド空間内の三角形分割可能な図形と説明するのが簡単ですが、ここでは三角形分割に依存しない「内在的」な定義をします。そこで重要になるのが「錐」の構造です。ユークリッド空間 \mathbb{R}^n において、点 a と、それを含まない集合 B が与えられているとき、線分 abb\in B にわたる和集合を aB と書きます。この aB の点が(a を除いて)(1-t)a+tb (t\in [0,1], b\in B) の形に一意的に表される状況を、「aB は錐である」と表現します。第1節の冒頭では、錐構造を用いて多面体を次のように定義します。

多面体の定義 \mathbb{R}^n の部分集合 P が多面体であるとは、P の各点 a に対して、P のコンパクト部分集合 B をうまく取ると、aB が錐となり、かつ aP における近傍をなすようにできることをいう。

さらに、多面体のもつ「局所錐構造」を保つ連続写像として、PL 写像が定義されます。こうして、多面体と PL 写像のなす圏が定義されると、その圏での同型射として、PL 同相写像が定義されます。こうして、PL トポロジーは多面体を PL 同相で分類する分野であるという粗っぽい定義が可能になります。なお、ここまでの知識で PL 多様体の定義を述べることができるので、そのまま第3節の最初の部分を読むことが可能です。

第2節「単体複体と単体写像」についてPL トポロジーは三角形分割された図形の幾何学だと言われることがよくあります。実際、多面体はつねにある単体複体により三角形分割され、そのような三角形分割を適切にとるとき、固有な(コンパクト集合の逆像がコンパクトな)PL 写像は単体写像として表されることが証明できます。とくに、コンパクトな多面体の間の PL 写像は単体写像となります。

以上の事実の証明が第2節の目標ですが、そのために、単体複体やその拡張である胞体複体の細分についての基本的な事実を地道に証明していくことになります。ここで、胞体複体とは、単体複体において単体よりも一般にコンパクトな凸多面体を構成要素に許したものです。例えば、K, L がともに \mathbb{R}^n 内の胞体複体であるとき、その「共通部分」

\{C\cap D\,|\,C\in K,\, D\in L\}

が再び胞体複体になることが証明できます。これは単体複体にはない性質です。このことを用いて、例えば、多面体の二つの三角形分割(単体複体による分割)が共通細分をもつことを証明できます。すなわち、上記のような共通部分として胞体複体を作ったのち、それを単体複体で細分すればいいのです。

第3節「PL多様体」について第3節では PL 多様体の基本性質を調べます。まず、定義は次の通りです。

PL多様体の定義 多面体 Mn 次元PL多様体であるとは、M の開被覆 \mathcal{U} が存在して、各 \mathcal{U} の各メンバーが上半空間 \mathbb{R}^n_+=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\} のある開集合にPL同相となることをいう。

ここでは、「多様体」といえば「境界付きかもしれない多様体」を意味する幾何学的トポロジーの流儀を取りました。境界のない多様体の定義は、上の定義の \mathbb{R}^n_+\mathbb{R}^n に置き換えたものです。

上では PL 多様体を多面体の言葉で述べましたが、多面体を三角形分割する単体複体はある特定の性質を満たすことが示されます。その性質を抽出したものが組合せ多様体の概念です。

組合せ多様体の定義 単体複体 Kn 次元組合せ多様体であるとは、Kの任意の頂点v に対して、スター |\mathrm{st}(v,K)|n 次元単体と PL 同相になることをいう。

定理 単体複体 K に対して、その多面体 |K|n 次元PL多様体であるためには Kn 次元組合せ多様体であることが必要十分である。

この定理を示すためには、単体複体の頂点のリンクの PL 同相型が、単体複体の細分について不変であることを証明しなくてはなりません。そのためには、頂点からの放射投影を用いるのが自然ですが、それは一般に PL 写像とならないため、それを修正した擬放射投影 (pseudo-radial projection) が用いられます(放射投影を PL 写像と勘違いすることは PL トポロジーの初期の文献に多く見られ、Zeeman がこれを指摘したため、Zeeman’s standard mistake という名前まで付いています。なお Zeeman がこの間違いをしたわけではないので注意が必要です)。これは技術的に重要な部分ですが、多くの文献ではあまり丁寧に書かれていないように思われます。

最後に、PL 多様体は、可微分多様体の通常の定義と同じように、座標変換が PL 同相写像であるような座標近傍の族を与えることでも定義できます。これは多くの文献で採用されていて、あまり PL トポロジーの内容に深入りしないで説明したい場合に便利に使われるように思います。私は、この定義といままでの定義が同値であるかどうかを疑問に思う読者は多いと考えました。そこで、その同値性が意味するところを定式化し、証明を与えることにしました。