単位閉区間と円周の位相的特徴づけ

単位閉区間と円周については、次のような特徴づけが知られています。

定理A. X を 2 点以上の点からなるコンパクト・連結・距離化可能な空間とする。このとき、X が単位閉区間 [0,1] と同相であるためには、X\setminus\{p\} が連結であるような点 p\in X の個数が 2 個以下であることが必要十分である。

定理B. Xを 2 点以上の点からなるコンパクト・連結・距離化可能な空間とする。このとき、X が円周 S^1=\{(x,y)\,|\,x^2+y^2=1\} と同相であるためには、任意の異なる p, q\in X に対して X\setminus\{p, q\} が連結でないことが必要十分である。

これらの定理は、1916 年から 1920 年にかけて証明されたもので、前に扱ったカントール集合と有理数空間の特徴づけ(カントール集合については 1910 年、有理数空間については 1920 年)とともに、点集合論トポロジーの黎明期の結果に挙げることができます。これらは次元論が本格的にはじまる直前の時代の結果ということになるようです。

今回は上の定理 A, B の証明について紹介します。

PDF「単位閉区間と円周の位相的特徴づけ」

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全射な曲線と単射な曲線

正方形を埋めつくすことで知られる Peano 曲線は、単位閉区間 I=[0,1] から正方形 I^2 への全射な連続写像です。このような曲線の発見は、次元論PDFでもふれた通り、次元の概念をゆるがす一つの出来事でした。今回のPDFでは、単位閉区間の連続像として表される (Hausdorff) 空間のクラスを特徴づける次の古典的な定理を紹介します。

定理A (Hahn-Mazurkiewicz の定理). Hausdorff 空間 X に対して、全射な連続写像 f\colon [0,1]\to X が存在するためには、 X が局所連結かつ連結でコンパクトな距離化可能空間であることが必要十分である。

この定理により、n 次元立方体 I^n や無限次元の Hilbert 立方体 I^\omega などが単位閉区間の連続像であることがすぐにわかります。その一方で、上の定理は、そのような連続像として表される空間には、連結性・コンパクト性のほかに「局所連結性」という制約があることを示しています。たとえば、下は「ワルシャワの円」という名で知られる局所連結でない空間ですが、これは決して単位閉区間の連続像で表すことができません。

上の定理Aは、空間に全射な曲線をつくる定理でした。今回紹介するもう一つの定理Bは、空間に単射な曲線をつくる定理です。

定理B. 弧状連結な Hausdorff 空間 X の任意の異なる二点 a,b\in X に対して、ある単射な連続写像 f\colon [0,1]\to Xf(0)=a,\, f(1)=b となるものが存在する。

この定理は、定理Aの証明と共通のテクニックを使って示すことができます。

最後の「余談」では、定理Aの証明に用いた局所連結性についての知識の簡単な応用として、ワルシャワの円のすべてのホモトピー群が自明であることなどを示します。

PDF「全射な曲線と単射な曲線」

カントール集合と有理数空間の位相的特徴づけ

今回は、次の二つの定理を証明します。

定理 A. (Brouwer) 完全不連結で孤立点をもたず空でないコンパクト距離空間は、カントール集合と同相である。

定理 B. (Sierpiński) 可算無限個の点からなり孤立点をもたない距離空間は、有理数全体の空間 \mathbb{Q} と同相である。

具体的な位相空間を、いくつかの簡単な位相的性質の組み合わせによって特徴づける定理には比較的簡単なものから、非常に難しいものまであります。「コンパクトで境界のない単連結な 3 次元多様体は 3 次元球面と同相である」というポアンカレ予想も、そのような定理の一種であるといえます。ここでは、最も簡単な部類に入ると思われる二つの古典的な特徴づけ定理を取り上げました。

PDF「カントール集合と有理数空間の特徴づけ」

一点コンパクト化上の距離

距離空間 (X,d) が局所コンパクトであるときには、一点コンパクト化 X^+=X\cup\{\infty\} が存在します。さらに X が可分である場合は、一点コンパクト化は距離化可能となりますが、X 上のもともとの距離 d からきまる自然な(位相に合致した)距離をもつわけではありません。それでも d とある程度よい関係にある距離を X^+ 上に構成できると好都合なことがあります。一点コンパクト化は元の空間を「縮めて」から無限遠点 \infty を付加する操作であると考えると、X 上で不等式 d^+\leq d を満たすような X^+ 上の距離 d^+ が存在すると期待できます。この辺について PDF に書いてみました。

PDF「一点コンパクト化上の距離について」

PLトポロジーの基礎

「PL トポロジーの基礎(暫定版)」で公開した PDF を切りのよいところまで書き上げることができたと思うので、新しいバージョンを公開したいと思います。(でも、これで完成版とはあえて言わないことにします。)

まず、暫定版では PL 多様体の節が “Coming Soon(?)” となっていたので、その部分を実際に書いたことが一番の変更点です。また、既存の部分も改めて自分で読み直してみたところ、書き間違いや証明の不備もあることが分かったので、それらを出来る限り直しました。暫定版と同じ大きめの字で書かれたバージョン(12 ポイント版)のほかに、全体を見渡すのに便利なように字を小さくしたバージョン(10 ポイント版)も一緒に公開します。

PL トポロジー PDF(12 ポイント版)

PL トポロジー PDF(10 ポイント版)

相変わらず図はありません。すみません。

さて、すでに暫定版で公開している内容とも重なっていますが、今回の PDF に書かれていることの概要をまとめてみたいと思います。

第1節「多面体と PL 写像」についてPL トポロジーが取り扱う幾何的対象は「多面体」と呼ばれるものです。これはユークリッド空間内の三角形分割可能な図形と説明するのが簡単ですが、ここでは三角形分割に依存しない「内在的」な定義をします。そこで重要になるのが「錐」の構造です。ユークリッド空間 \mathbb{R}^n において、点 a と、それを含まない集合 B が与えられているとき、線分 abb\in B にわたる和集合を aB と書きます。この aB の点が(a を除いて)(1-t)a+tb (t\in [0,1], b\in B) の形に一意的に表される状況を、「aB は錐である」と表現します。第1節の冒頭では、錐構造を用いて多面体を次のように定義します。

多面体の定義 \mathbb{R}^n の部分集合 P が多面体であるとは、P の各点 a に対して、P のコンパクト部分集合 B をうまく取ると、aB が錐となり、かつ aP における近傍をなすようにできることをいう。

さらに、多面体のもつ「局所錐構造」を保つ連続写像として、PL 写像が定義されます。こうして、多面体と PL 写像のなす圏が定義されると、その圏での同型射として、PL 同相写像が定義されます。こうして、PL トポロジーは多面体を PL 同相で分類する分野であるという粗っぽい定義が可能になります。なお、ここまでの知識で PL 多様体の定義を述べることができるので、そのまま第3節の最初の部分を読むことが可能です。

第2節「単体複体と単体写像」についてPL トポロジーは三角形分割された図形の幾何学だと言われることがよくあります。実際、多面体はつねにある単体複体により三角形分割され、そのような三角形分割を適切にとるとき、固有な(コンパクト集合の逆像がコンパクトな)PL 写像は単体写像として表されることが証明できます。とくに、コンパクトな多面体の間の PL 写像は単体写像となります。

以上の事実の証明が第2節の目標ですが、そのために、単体複体やその拡張である胞体複体の細分についての基本的な事実を地道に証明していくことになります。ここで、胞体複体とは、単体複体において単体よりも一般にコンパクトな凸多面体を構成要素に許したものです。例えば、K, L がともに \mathbb{R}^n 内の胞体複体であるとき、その「共通部分」

\{C\cap D\,|\,C\in K,\, D\in L\}

が再び胞体複体になることが証明できます。これは単体複体にはない性質です。このことを用いて、例えば、多面体の二つの三角形分割(単体複体による分割)が共通細分をもつことを証明できます。すなわち、上記のような共通部分として胞体複体を作ったのち、それを単体複体で細分すればいいのです。

第3節「PL多様体」について第3節では PL 多様体の基本性質を調べます。まず、定義は次の通りです。

PL多様体の定義 多面体 Mn 次元PL多様体であるとは、M の開被覆 \mathcal{U} が存在して、各 \mathcal{U} の各メンバーが上半空間 \mathbb{R}^n_+=\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\} のある開集合にPL同相となることをいう。

ここでは、「多様体」といえば「境界付きかもしれない多様体」を意味する幾何学的トポロジーの流儀を取りました。境界のない多様体の定義は、上の定義の \mathbb{R}^n_+\mathbb{R}^n に置き換えたものです。

上では PL 多様体を多面体の言葉で述べましたが、多面体を三角形分割する単体複体はある特定の性質を満たすことが示されます。その性質を抽出したものが組合せ多様体の概念です。

組合せ多様体の定義 単体複体 Kn 次元組合せ多様体であるとは、Kの任意の頂点v に対して、スター |\mathrm{st}(v,K)|n 次元単体と PL 同相になることをいう。

定理 単体複体 K に対して、その多面体 |K|n 次元PL多様体であるためには Kn 次元組合せ多様体であることが必要十分である。

この定理を示すためには、単体複体の頂点のリンクの PL 同相型が、単体複体の細分について不変であることを証明しなくてはなりません。そのためには、頂点からの放射投影を用いるのが自然ですが、それは一般に PL 写像とならないため、それを修正した擬放射投影 (pseudo-radial projection) が用いられます(放射投影を PL 写像と勘違いすることは PL トポロジーの初期の文献に多く見られ、Zeeman がこれを指摘したため、Zeeman’s standard mistake という名前まで付いています。なお Zeeman がこの間違いをしたわけではないので注意が必要です)。これは技術的に重要な部分ですが、多くの文献ではあまり丁寧に書かれていないように思われます。

最後に、PL 多様体は、可微分多様体の通常の定義と同じように、座標変換が PL 同相写像であるような座標近傍の族を与えることでも定義できます。これは多くの文献で採用されていて、あまり PL トポロジーの内容に深入りしないで説明したい場合に便利に使われるように思います。私は、この定義といままでの定義が同値であるかどうかを疑問に思う読者は多いと考えました。そこで、その同値性が意味するところを定式化し、証明を与えることにしました。

 

PLトポロジーの基礎(暫定版)

これは暫定版です。新しいバージョンは「PLトポロジーの基礎」をご覧ください。

久しぶりの投稿です。今回は、位相空間論から幾何学的トポロジーの方向に少し舵を切りたいと思います。PLトポロジーは多様体などを三角形分割を通して研究する分野です。そこで扱われる対象は「多面体」とよばれる三角形分割可能な図形であり、扱われる写像は「PL写像」とよばれるもので、これは定義域の適切な三角形分割について各単体をアフィン写像でうつすような写像をいいます。例えば、\mathbb{R}から\mathbb{R}へのPL写像は、グラフが折れ線である関数と同じものです。ちなみに、PL とは Piecewise Linear の略であり区分線型と訳すこともあります。もっと正確には Piecewise Affine とすべきかもしれませんが。

今回の PDF では、Rourke-Sanderson による Introduction to Piecewise-Linear Topology (以下 [RS] と書く)という古典的名著を大いに参考とし、多面体も PL 写像も三角形分割によらず内在的に定義するスタイルを取りました。[RS] はこのスタイルを貫くことで大変美しく書かれているのですが、私の PDF でそれが実現できているかは自信がありません。しかし、[RS] をはじめとする PL トポロジーの成書に多かった議論のギャップをほとんど埋めることには成功していると信じています。結び目理論・3 次元多様体論の基礎付けなどで PL トポロジーが必要になり、本を手に取ってはみたが証明が追えなかった、などという人には助けになるかもしれません。

なお、この PDF の内容は、多面体・PL写像と単体複体・単体写像との関係を述べるという最低限の内容にとどまっています。実は、このPDFを作った動機は、2次元・3次元多様体の三角形分割について説明するときに、三角形分割やその細分に関する諸事実の証明が意外に大変で、これは場所を改めてやるべきだと感じたことでした。そういう動機もあって、ここでまとめられていることは、PLトポロジー本来の内容というよりも、それを展開するための基礎といったものになっています。定理の内容も、ていねいに絵を描いて考えれば明らかと思ってもらえるものが多いと思います。

このPDFは暫定版です。本当はもっと完成度を高めてから出したかったのですが、早く読んでもらいたい気持ちもありますし、公開の時期を逃したくなかったのでこの状態でとりあえず公開します。この後は、微分トポロジーでの可微分多様体に対応する PL 多様体の定義と基本事項について書きたいと思っています(これをまだ書いていないのに PL トポロジーの基礎を銘打つべきではないかもしれません)。また、絵がないのはこのPDFの致命的な欠点です!!(非常に見栄えのする絵が描けるのが PL トポロジーの特徴です)これも何とかしたいところです。もっとも、絵がないことで、議論のごまかしをしていないことのアピールにはなっているかもしれませんが…。読むときには各自手元で絵を描くことを強くおすすめします。

追記:2018年5月6日、PLトポロジーPDFの新しいバージョンを公開しました。PLトポロジーの基礎でダウンロードできます。PL多様体の記述が追加されたほか、証明の不備や誤植も修正しましたので、以後はこれを参照して下さい。暫定版は今後公開を終了する予定です。

PDF「PLトポロジーの基礎(暫定版)」

位相空間論における反例と線形順序

位相空間論ではさまざまな例が全順序(またの名を、線形順序)を伴って構成されます。たとえば、実数直線 \mathbb{R} の通常の位相は開区間 (a,b) の全体で生成されます。これを少し変更して、実数直線に [a,b) の形の半開区間の全体で生成される位相を入れたものは Sorgenfrey 直線と呼ばれ、反例としてよく引用されるものです。これは例えば、それ自身はパラコンパクト Hausdorff だがその平方はパラコンパクトでないような空間の簡単な例になっています。

1 次元多様体で距離化可能でないものの例として、長い直線を以前に取り上げました。これも、全順序集合に開区間全体から生成される位相を入れたものです。長い直線の構成で重要だったのは、最小の非可算順序数 \omega_1 です。この \omega_1 に開区間から生成される位相を入れたものは、位相空間論で非常に汎用性の高い反例です。とくに、パラコンパクト性を一般化して得られる様々な性質が \omega_1 では成り立たない(\omega_1 は非パラコンパクト性が高い!)ことが知られています。

また、少し変わった例として Michael 直線というものがあります。これも土台となる集合は実数直線ですが、通常の開区間に加えて、各無理数 q について 1 点集合 \{q\} も開集合であるとして得られる位相が入っています。Michael 直線は正規空間となりますが、ある距離空間 M との直積が正規空間となりません。実際、そのような M として、通常の位相が入った無理数全体 \mathbb{R}\setminus\mathbb{Q} を取ることができます。この例は正規性が積について非常に保たれにくいことを示す例といえます。

以上の例のうち、実数直線・長い直線・\omega_1 は全順序集合に開区間すべてで生成される位相を入れたものです。このような位相空間を、線形順序空間 (linearly ordered space) といいます。

Sorgenfrey 直線や Michael 直線はもう少し複雑です。これらは、全順序集合において、その順序に関する凸集合(つまり a,b\in E,\, a<x<b \implies x\in E を満たすような E)の族を一つ指定し、それで生成される位相を入れたものになっています。このような位相空間を、GO 空間 (Generalized ordered space, GO-space) と呼んでいます。もちろん、線形順序空間は、GO 空間です。

このように、位相空間の主要な反例と考えられているものが、線形順序空間、あるいはより一般に GO 空間となっています。

今回の PDF では、このような反例について最初は個別に性質を見ていき、中盤にさしかかった辺りで線形順序空間と GO 空間の一般論を展開し、ある種の強い正規性(継承的族正規性)など統一的に証明できる性質を示していきます。また、GO 空間は、空間のクラスとして、線形順序空間の部分空間と同じものであることも示されます(PDF ではこちらを GO 空間の定義として採用しています)。

さらに全順序集合の完備化のテクニックを用いて、任意の GO 空間があるコンパクトな線形順序空間に稠密に埋め込まれることをみます。これは、GO 空間についての命題を線形順序空間に帰着するために用いられます。

最後に、GO 空間のクラスにおいて、位相空間のさまざまな可算性(可分性・リンデレフ性など)の間の相互関係(つまり、どの性質からどの性質に含意 \implies があるか)を調べます。図を見れば一目瞭然なのですが、一般の空間の場合に比べて、GO 空間の可算性は非常に簡単な一直線の(線形順序をなして並んだ!)含意関係があります。

この議論の過程で自然に生じる問題の中には、集合論から独立であることが分かっているものが多くあります。例えば、含意関係のなす図式で \implies と書かれている場合、\Longleftarrow には反例がある場合もありますが、反例の有無がそもそも集合論から独立であると分かっている場合もあります。独立性証明については現状の筆者の能力を越えていますが、知られている事実については必要に応じてまとめました。

PDF「位相空間論における反例と線形順序」